カントラ工房NEWS~手描きから印刷へ~

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株式会社カントラ工房の更新担当の中西です

 

~手描きから印刷へ~

 

看板製作業の歴史を語るとき、多くの人が思い浮かべるのは、筆で書かれた木の看板や、夜に輝くネオンサインかもしれません。しかし、現代の看板の現場を支えているのは、印刷、カッティング、シート施工、データ制作といったデジタル工程です。看板製作業は、時代ごとに「主役となる技術」を入れ替えながら成長してきました。それは職人技が消えたという話ではなく、職人技の中身が変化し、拡張してきた歴史です。今回は、制作技術の変遷を軸に、看板製作業の進化を見ていきます。

1. 手描き看板が当たり前だった時代の技術体系

かつて看板は、基本的に「描く」ものでした。木板に下地処理を行い、文字や図柄を墨で当たり、筆で仕上げ、必要に応じて金箔や漆を施す。ここで重要なのは、単に字がきれいというだけではありません。遠くから読める太さ、バランス、余白、読み順、視線誘導、そして店の格や雰囲気を表す表現が求められます。

この時代の看板職人は、書家、絵師、塗師の技能を併せ持つ存在でした。文字の勢いは客足に影響すると信じられていたため、看板の筆運びには“商売の気配”を作る力があるとされました。看板製作業の原点は、視覚表現と商業心理の結びつきにあります。

しかし、手描きには時間がかかり、再現性に限界がある。チェーン展開や複数店舗の統一感が求められるようになると、別の制作方法が必要になります。

2. 印刷技術の発展が「面」と「情報量」を増やした

印刷が普及すると、看板の表現は大きく変わります。まず、写真やグラデーション、細かな図柄を看板に落とし込めるようになります。これにより飲食店のメニュー写真、不動産の物件写真、サービスの説明図など、“情報量の多い看板”が成立します。

特に屋外広告では、短い時間で理解されることが重要です。写真やピクトグラムを使う表現は、言語の壁を越えて伝わりやすく、街が多国籍化するほど価値が高まります。印刷技術の進化は、看板を「文字中心」から「ビジュアル中心」へ押し広げました。

また、フィルムや塩ビシートが普及すると、看板製作の工程は「板に描く」から「シートを貼る」に移り始めます。ここで求められる職人技は、筆ではなく、下地処理、貼り込み、気泡抜き、曲面追従、耐候性確保といった施工技術へ移行します。作り方が変われば、熟練のポイントも変わるのです。

3. カッティングシートが生んだ「スピード」と「精度」

看板製作業における大きな革命の一つが、カッティングシートとプロッターの普及です。データを作れば、文字を同じ形で切り出せる。これにより、同一フォント、同一サイズの文字が量産でき、店舗展開や案内表示の統一が容易になります。

カッティングの価値は、見た目が整うだけではありません。施工の時間短縮、修理の簡易化、表示の統一管理など、運用面にもメリットが生まれます。例えば、営業時間の変更や電話番号の変更といった更新作業が、以前より柔軟になりました。看板は一度作ったら終わりではなく、事業の変化に応じて更新されるものです。カッティングの普及は、看板を「更新可能な媒体」に変えていきます。

ただし、カッティングも“機械任せ”ではありません。施工面の脱脂やプライマー、温度管理、貼り込み手順、立体文字の割付、曲面の伸ばし具合など、現場は判断の連続です。データ制作が正確でも、施工が甘ければ早期剥離や浮きにつながります。ここで職人技は「環境条件と素材特性を読み取る能力」として価値を増します。

4. インクジェット出力が「看板の表現力」を爆発させた

インクジェットプリンターの性能向上は、看板製作業にとって決定的でした。高解像度で屋外耐候性のある出力が可能になり、ラミネート加工で耐久性を確保し、屋外に長期掲出できる。これにより、店舗の壁面全体を覆うような大型グラフィックや、車両ラッピング、窓ガラス装飾など、看板の領域は一気に広がります。

この変化は、単なる技術の進歩ではなく、看板が「空間演出」に踏み込んだことを意味します。看板は店名を示すだけでなく、店の世界観を作り、来店前から期待感を醸成し、SNSで撮られる背景にもなっていきます。つまり、看板製作業は広告とデザインの境界に入り込み、ブランディング産業としての側面を強めました。

一方で、出力機が高性能化するほど、データ制作の質が看板の品質を左右します。色校正、解像度、トンボ、余白、素材ごとの発色差、ラミネートの光沢、夜間照明の色温度など、印刷物としての知識が必要になります。看板製作業は、現場施工だけではなく、デザイン・DTP・カラーマネジメントの領域まで包含するようになります。

5. 技術革新が「看板屋の役割」を広げた

手描きの時代は、表現者としての技術が中心でした。印刷やカッティングの時代は、再現性と運用性が中心になります。そしてデジタル出力が普及すると、看板は空間デザインと結びつき、看板屋は“店づくりのパートナー”へ変化します。

歴史の中で一貫しているのは、看板が「伝える」媒体であること。そして、伝えるために必要な技術が時代ごとに変わるということです。看板製作業は、道具や材料が変わっても、伝達の本質に向き合い続けてきました。